殺人系YouTuber

『どーも! 殺人系YouTuberのマーダラーです!』 最近、このマーダラーとかってYouTuberの動画を見ている。 なぜなら…。 『今回はね、通りすがりの通行人を殺して解体する模様のタイムラプス動画を撮りました。良かったらご笑覧下さい』 画面が切り替わる。 その動画のマーダラーはそう言うと両手足を縛られ猿ぐつわを咬まされた女性を軽く蹴った。 『ほら〜、もっと怖がって誰も何もしてくれないので、不幸だよね〜』その女性は涙目でカメラを見る。 『さて、まずはこの女の人をどうするか決めましょうか?』 するとマーダラーはその女性の髪を鷲掴みにし持ち上げる。 『ん? あー、顔出しNGなんですね。ならマスクでも被りますかね』 そして女性が持っていたバッグからマスクを取り出した。 『じゃあ、これ付けてっと……うっひゃー、これは酷いや』 画面に映っているマーダラーの顔はモザイクで覆われていた。 しかし、口元はニヤついているように見えた。 『んじゃ、早速やりますか!』 マーダラーはチェーンソーを取り出すと、スイッチを入れ監禁した女性の四肢を切断した。「いぎぃああぁぁ!!」 その女性は悲鳴を上げた。 血飛沫が上がる。 「ひっ!」 私は思わず目を背けた。 「ふぅ……」 私は大きく息を吐いた。 正直言って心臓に悪い。 だが、食事が喉を通らなくなるのでダイエットに最適とテレビ番組で芸能人が話してたのだ。 だから、見ないと損なのだ。 それに、この動画のお陰で実際体重が減ったしな! 今日も仕事頑張れるぞ!! 私は朝食を食べ終えると歯磨きをして、出勤の準備をする。 部屋を出る前にスマホを見ると、ラインが何件かきていたので確認する。全て母親からのものだった。 内容はいつも通りの愚痴である。 私だって好きでこんな家に生まれた訳じゃない。 だけど仕方ないじゃないか。 親父はギャンブル依存症だし、母親はヒステリック持ちなんだもん。 そんな家庭環境の中育ったんだ。 そりゃ性格歪むよ。それでも我慢してきたんだよ。 だけどもう限界だよ。 高校卒業と同時に家を出てやった。 最初は猛反対されたが、私の本気度を知ると渋々了承してくれた。 それからバイト生活だったけど、何とか一人暮らし出来るくらいの収入を得た。 そして今の仕事に就いた。別にやりたい事があった訳ではない。 ただ単に給料が良いからだ。 しかし、それが間違いだったのかもしれない。 今の職場はブラック企業と言っていいだろう。 毎日終電まで残業するのは当たり前、休日出勤もしょっちゅうある。 上司からはパワハラを受ける事もある。 そんな時、バラエティ番組に出てたとある芸能人が『殺人系YouTuberマーダラー』の事を教えてくれたのだ。 私はそれを見て衝撃を受けた。 何故ならそれは私が理想とする生き方そのものだからだ。 あの人は私と同じ考えを持っている人だと思った。 だから彼のチャンネル登録をした。 そこからだ。 彼が投稿している動画を片っ端から見ていったのは。 最初に見たのは盗難車で小学校の集団登校の列にフルアクセルで突っ込みドリフトで肉片を払ってどこかへ走り去る…そんな内容だった。次に見たのは通学中の小学生を後ろから追い抜きながらナイフで切り刻んでいく……そんな内容だった。 次は通勤途中のサラリーマン達を無差別に襲って解体していく……そんな内容だった。 次を見た時は驚いた。その日はたまたま早く会社に着いたのだが、そこで目にしたのは何台ものパトカーが止まっており、警察官達が現場検証を行っていたのだ。 よく見るとマーダラーの犯行と思われる死体が3体ほどあった。 「えっ?」と声が出そうになったが、グッと堪えた。 一番手に汗握る動画は、素手でチンピラや酔っ払いと格闘し倒した相手をなぶり殺す…そんな内容だった。 その時思ったね。 「これが本当の殺し合い」だと。 そして私は確信した。 彼は私と同じ人種だと。 私は彼を尊敬した。 憧れた。 だから彼のファンになった。 いつか彼に会えるように、彼のような本物の殺人鬼になれるように。 そんな折、マーダラー初の自著『快楽殺人家』出版記念サイン会が近所の書店で行われるという。 彼に思いの丈をぶつけるチャンスだ。私は迷わず応募した。 抽選に当たった時の喜びは今でも忘れない。 そして当日、私は生まれて初めて握手会というものを経験した。 手を握った瞬間分かった。 彼だ! 本物だ!! 私の中の何かがそう叫んでいた。 その後、彼と少し話をした。とても楽しく有意義な時間だった。 そして最後に握手を交わした。 「ありがとうございます。貴方のファンになって良かったです!」 「いえいえ、こちらこそいつも見て頂いて感謝していますよ。これからも応援よろしくお願いしますね〜」 「はい!!」 私は高揚した気分のまま帰宅した。 しかし、彼はどうして逮捕されないのだろう?あんなにも残虐なのに。 まぁ良いか。捕まらないなら私には関係ない。 でも、もし逮捕されたらどうしよう。 私はその事ばかり考えていた。 翌日、私はいつも通り出社した。 「おはようございまっす!」 元気良く挨拶をする。 「おお、今日もサビ残たのむよ…なーんちって」上司が笑いながら言う。 この人はいつもこうだ。自分のミスを他人のせいにする。 そのくせして自分は偉いと思っている。 「あはは、分かりました! では早速取り掛かります!」 私は作り笑顔で返事をし、仕事に取り掛かる。 (上司殺す上司殺す上司殺す…お前なんかいつでも殺せる…) 私は心の中で呟き、キーボードを叩く。 今日のノルマはあと2件か……。 私はパソコンを見ながらため息をつく。 今日も一日頑張ろう。 定時になり、タイムカードを切る。 今日は珍しく早く終わったな。 明日休みだし、帰りに本屋さん寄って帰ろっと。 そんな事を考えていると、スマホが鳴る。 LINEの通知だ。 ん?誰だろう。 『今すぐ来てくれ。場所は××ビルの屋上。』 とだけ書いてある。 差出人は……マーダラー!? ちょっと待って、私マーダラーにLINEのID教えてないけど…どういう事? とりあえず返信しないと……。 『すみません、どちら様ですか?』 既読はついたが、一向に返信がない。 これは無視されたのだろうか? 仕方ないので、言われた場所に行ってみる事にした。 指定されたビルに着く。 辺りを見回すが誰もいない。 マーダラーどこ行ったんだろ? すると突然、後ろから声をかけられた。 「おい」 驚いて振り向くと、そこにはマーダラーがいた。 私と同じ身長で、全身真っ黒の服を着ている。 顔はマスクで覆われていて分からない。 「何で私を呼び出したんですか?」そう尋ねるとマーダラーは答えてくれた。 「お前に聞きたい事がある」 何を聞かれるのか不安になる。 一体どんな質問なんだろう。 まさか『今すぐ殺したい』とか? 今すぐは勘弁して欲しい… そんな考えが頭を過った時、彼は口を開いた。 「『快楽殺人家』どうだった?」 「…は?」 「あれ? サイン会のチラシに書いてあるの読んでなかった? 『LINE IDを書いてくれた人の中から抽選で3名様にサプライズで直接本の感想を聞きに伺います』って書いたはずだけど…?」「あっ……」 そういえばそんな事が書かれていたような気がする。 私はすっかり忘れていた。 「もしかして忘れてた?」 「はい……」 「ふーん。まぁいいや。ところでどうだった?」 「えっ?」 「読んだんでしょ?」 「はい…」 私はマーダラーに『快楽殺人家』の感想を訥々と話した。 「そっか。楽しかったか。それは良かった」 彼は満足気に言う。 「あの……一つ聞いても良いですか?」 「何?」 「本にはマーダラーさんは『オレが蒙昧と見做した奴の命を狩ることが存在理由だ』と書かれてましたが…本当のところはどうなんですか? 余り詮索したくないんですが、どうもマーダラーさんが何かを粉飾してる様な気がしてて…」 私はずっと気になっていた。 彼の目的は何なのか。 「ああ、それね。別に隠すつもりは無いよ。俺はただ、俺みたいな人間を増やしたく無いだけだよ。それに、俺は自分が楽しいと思う事はやるけど、人をいたぶる事なんて楽しくもないしね。だから君は安心してくれて良いよ」 得心した。 彼は本質的に優しい人なんだ。 私はマーダラーと笑顔で別れ、家に帰った。そしてベッドに横たわる。 マーダラー……かっこ良かったなぁ。 私はマーダラーの事を考えながら眠りについた。 翌朝、私はいつも通り出社した。 「おはようございまっす!」 いつも通り元気良く挨拶をする。 「おう、今日もサビ残たのむよ……なーんちって」上司が笑いながら言う。 私は作り笑いで返事をし、仕事に取り掛かる。 (上司殺す上司殺す上司殺す……お前なんかいつでも殺せる……) 私は心の中で呟き、キーボードを叩く。 そして仕事を終わらせ、家に帰ってマーダラーの新作殺人動画を見るんだ。 こうして私は日常をサバイブしている。 終わり。

公開 最終更新: 2021-12-28 05:02:47 PM