放火魔野郎
よう、オレは放火 魔野郎(ほうか まやろう)。
物心付いた頃からあらゆる物を燃やしてきた生まれついての放火魔さ!
しかし、そんなオレにも誇るべき点がある…放火で誰一人死なせてないんだ!素晴らしいだろ? オレが火を付けた家は全焼しても必ず死者が出なかったんだよ!! この前も放火した家には、たまたま遊びに来てた女子高生と母親が居てなぁ~! 二人とも無事だったよ!
これはそんなオレの日常だ…。
「今日はどこにしようかな~♪」
オレはいつものように町を散歩しながら次のターゲットを探していた。
「おっ!いい感じの家発見!」
そこはボロアパートだった。
今にも崩れそうな程に老朽化していた。
「へっへっへ、早速燃やすぞ〜」
その時、オレを呼ぶ声が聞こえた。
「おい、放火! 今すぐ放火を止めろ!」
聞き覚えがある声だ…それにしても我ながらややこしい姓だな。
「お前は…火事場 消化夫(かじば しょうかお)!?」そこにいたのは消防士姿の男がいた。
「そうだ、俺の名前は火事場 消火夫だ! お前が放火犯だと通報があったから捕まえに来たぜ!」
そう言うと男はオレに向かって走ってきた。
「くそぉー!!」
オレは慌てて逃げ出した。しかし、ただ逃げるのも癪だ。
何かアイツに仕返ししてやりたい……。
そこで思い付いたのが『放火』である。
「待てぇええ!!」
男が後ろから追いかけてくる。
よし、あの手を使うか。
オレは懐に忍ばせた火炎瓶を取り出し火を付け、火事場の野郎に投擲した。
ガシャン…ゴゴゴゴー!
「あつ…熱い! 焼け死ぬ!!」
火事場の野郎は業火に包まれ苦しんでいた。
オレはその隙に逃げた。「ふぅ〜危ねぇ……」
そして、放火現場から少し離れた所で警察がやってきた。
どうやら先程の騒ぎを聞きつけて来たらしい。
警察は燃え盛る炎を見て呆然としていた。
「これは捜査面倒だわー」とか言いながらその場を離れていった。
いや、面倒なら見んなよ! オレはそんな事を思っていた。
それから数時間後……
「はぁはぁ……ここまで来れば大丈夫だろう」オレは息を切らせながら走っていた。
「腹減ったしコンビニでも行くか」
近くのコンビニに行き適当に弁当を買い帰宅する途中だった。
すると突然、背後から声を掛けられた。
「あれ?君ってさっき放火をしてた子じゃない?」
振り向くと同年代くらいの女の子だった。
名前は田中 ホームズ子。どう見てもキラキラネームである。
「なんだアンタか……なんでこんな所にいるんだ?」
「いや〜私ね、実は探偵やっててさ。ちょっと依頼があって調べていたんだけど、まさかここで会えるとは思わなかったよ〜」
「へぇ〜探偵なのか。それで? 何を調べているんだ?」
「最近この町で起きている連続放火事件についてだよ」
その言葉を聞いてゾッとした。
まさかさっきの事件を見られていたのか!?
「そ、そうなんだ〜」
「うん、しかも犯人らしき男の子を見た人がいるらしくてね。君しかいないと思ってたんだよ〜」ヤバい、コイツに捕まる訳にはいかない。
なんとか逃げないと……。
しかし、この女中々足が速い。
このままでは追いつかれる。
「くっ……こうなったら!」
オレは全力疾走した。
「あ、待てー!」
ホームズ子が追ってくる。あいつに捕まると官憲に突き出されない代わりに『波裏痛拳(ばりつけん)』なる創作拳法の餌食にされてしまう…!! それは文字通り『痛みを伴うパンチ』である。
オレは必死に逃げたが、遂に追い詰められてしまった。
もうダメだと思ったその時だった。
「うおおおお!! 必殺・火災旋風!!」
突如として竜巻が発生した。
ホームズ子はそれに飲み込まれ吹き飛ばされていく。オレは助かったのだ。
「な、なんだ今のは!?」
そこには消防服に身を包む男がいた。
「おい! 無事か少年!」
「ああ、あんたのお陰で助かったぜ!」
「そうか、それじゃ俺はこれで失礼する!」男は立ち去ろうとしたその時だった。
「ぐおぉお……まだだ!! 私は負けてはいない!!」
竜巻の中からホームズ子の怒号が聞こえてきた。
「なにぃ!?」
男が驚いている間にホームズ子は戻ってきた。
「ハァハァ……逃すかぁ!!」
「しつこい奴め!」
「喰らえ、波裏痛拳!」
ホームズ子の打突が消防服の男に命中、男は50メートルほど吹っ飛ばされ動かなくなった。「やった!私の勝ちだ!」
「お、おい……大丈夫か?」
オレは心配になり近寄った。
「なぁに、問題ない……俺の事は気にする…」
次の瞬間、金属バットが男の頭に振り下ろされた。
振り返る金属バットを握りしめた全裸のキチガイがケタケタ笑っていた。
オレとホームズ子は思わず顔を見合わせた。「こ、今度は一体誰!?」
「いや、こっちが聞きたいぜ!」
キチガイは笑いながら続ける。
「ウヒヒ! 見つけたぞぉ放火魔! 今日こそオマエの最期だ!」
「えっと……あの……どちら様ですか?」
ホームズ子が恐る恐る尋ねた。
「俺の名は既知 該(きち がい)! 狂える男よ!!」
「「名前がそのまま過ぎるわ!!」」
オレ達は同時にツッコんだ。
「さぁ、覚悟しろ放火魔! お前は俺が成敗してやる!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! オレは放火なんてしてねぇ!!」
「嘘をつくんじゃねぇ! 現に火を付けただろうが!!」
「いや、そのな…」
「ヒヒィー! 弁解してもムダだぜ? 俺が巨悪認定した奴はな…『大宇宙意思ドルガモンカウピョー』様の血肉となり、慰み者にもなるのだ…ヒヒッ」
「なに言ってんのこの人!?」
「ええい! こうなったら実力行使! くらえ、波裏痛拳!」
ホームズ子が打突を決める。
「させるか! バット乱舞!!」
ホームズ子はバットをかわす。そして、既に背後に回り込んでいた。
「しまった!!」
「もらった!! 必殺・統失入滅打!!」ホームズ子渾身の一撃が決まったかに見えた。
しかし、キチガイは倒れなかった。
「効かぬわぁ!!」
キチガイはニヤリと笑う。
「くっ……ならこれはどうだ!」
「無駄だ! 俺はそんな攻撃では倒せ……」「火炎放射!!」
ホームズ子の口から炎が吐き出される。
「ギャアァア!!」
流石のキチガイもこれには堪らず倒れた。……いや、なんでだよ!?
「やったか?」ホームズ子は手応えを感じたのか、そう呟いた。
しかし、キチガイは倒れなかった。
「カカカ…俺はよぉ、PCPを摂取してるからどんな痛みも感じねぇんだよ」
「PCPだと!? あれは麻薬の一種じゃねぇか!」
「クッ……こうなったら最終手段を使うしかないようだな……」
「まだ何かあるというのかい?」
ホームズ子が構えた。
「そう、私は人間を止める…題して『田中ホームズ子卍解ZX』!」
ホームズ子はそう叫ぶと体長3メートルの人型モンスターに変身した。
「ヒヒッ、勝てるかな?」
キチガイの涼しげな表情もホームズ子には通じない。
かくして最終決戦が始まった。ホームズ子は全身を回転させてドリル状に回転しながら突進していく。
「いくぜぇ!!……必殺・超絶螺旋連撃!!」
凄まじい破壊力を誇る必殺技がキチガイを襲う。
キチガイは真っ二つに引き裂かれ爆発四散する……はずだった。「ヒヒィイイン! 甘いぜ!」
キチガイは瞬時に再生し、ホームズ子に反撃する。
「うわあああああ!!」
ホームズ子は吹き飛ばされた。
「ホームズ子!」オレはその姿を見て叫んだ。
全身の至る所から折れた骨や臓器が露出しており、完全に瀕死だ。「ウヘェエ……そろそろ終わりにしてやる」
「くっ……ここまでなのか……」
ホームズ子が諦めかけたその時だった。
「ホームズ子…君でも勝てない相手がいたとはね」
「あなたは…ワトソン弥三郎!?」そこに現れたのはホームズ子の友人、ワトソン弥三郎だった。ちなみに女性だ。
「ああん? なんだテメェ?」
キチガイが不機嫌そうな声を上げる。「ホームズ子の仇……私が討つ!」
「おいおい、邪魔する気かぁ?」
キチガイがゆっくりと立ち上がる。
「ホームズ子は私の大切な友人……だから、見捨てるわけにはいかない!」
「うるせぇ! 女は黙ってろ!」
ワトソン弥三郎はキチガイに向き直り叫んだ。
「喰らえ、ブリティッシュ・フェミニズム・キャノン!」
ワトソン弥三郎が発光し半径5キロメートルにいる全ての女性の生命エネルギーを吸い取って巨大な光弾を無数に形成し、キチガイに全て放った。
ちなみにエネルギーを吸われた女性は例外なく衰弱死する。
それがブリティッシュ・フェミニズム・キャノンだ。
「ウギャアアアアアア!!!」
キチガイは跡形もなく消滅した。
「ふぅ……一件落着」
「ワトソンさん……ありがとうございます……」
ホームズ子が礼を言う。
「いいさ、私達は親友じゃないか……ところで、ホームズ子はこれからどうするつもりだい?」
「とりあえず、実家に帰ろうと思います」
「そうか、それじゃまた会おう……ホームズ子とはどこかで会う気がするんだ」
「はい、きっと会いましょう」
こうして、ホームズ子の長い戦いが終わったのであった。
「あの…オレの事忘れてね?」
完
公開 最終更新: 2022-03-06 10:04:04 PM